秘密基地 その2(塾長ブログ)

順平も、秘密基地をもっていた。

順平の家の裏、かつて断食寮という療養所だった下宿屋の東隣に、「広場」と呼ばれている場所がある。

住宅地か何かにするつもりだったのか、小山を三段にわたって切り取りしてあるのだが、もう何年も放置したままの状態である。

中でも二段目はとても広くて野球をするにはもってこいだった。順平もかつては父に野球の特訓を受けたり、友達を誘って試合をしたりしていた。

バックネットにあたる所が垂直な崖になっているので、ボールを後逸した際にも跳ね返って来て具合がいいのである。

グラウンドも平坦でイレギュラーも少ない。ただ、難点と言えば、大ファールやホームランを打ったらボールが林の中に迷い込んでしまったり、下の道に落ちてしまうことだった。

こんな便利な場所はあまりないとみえ、周辺の人たちには知れ渡った場所であるらしく、休みの日には結構人の姿もあった。

普通の人はずっと奥まで行って、そこからまた折り返す道を辿るのであるが、順平たち勝手知ったる者は、途中の斜面を木の根っこや先人がつけた踏み穴を頼りに登る。

そのほうが数段手っ取り早い。

一段目には自然と左脇に登り道のようなものがついていて、松の幼木やツツジの木をつかんで登ると、見晴らしは格別だった。

何せ二段目とは五メートル位も段差がついているので、球場の実況席から試合を観戦するようなものだった。

三段目にも、鬱蒼とした緑を潜り抜けて行くことができた。こちらは蜘蛛の巣や得体の知れない虫たちや露との闘いが行く手を阻んだ。

順平の秘密基地は、ある時、その三段目に設営された。

一番下とはいっても、下の小路からは四、五メートルばかりの高さがあった。

木々の小枝が幾分膨らみを持って張り出した箇所で、そこに要塞を築いていたのだ。

親にも親友にも知られぬ自分だけの牙城であった。要塞造りは、さほど手間はかからなかった。

まず、人一人入る位の空間を確保しなければならないので、邪魔な小枝は曲げるか折り去る。あくまで要塞であることが発覚せぬよう、外部からの視界を遮るために、枝の湾曲し迫り出した部分に小枝を張り巡らせる。

床にはマツやシダの葉を敷きつめる。大砲や機関銃も当然必要となるから、幾分大きめの木の枝や幹を拾ってきて、しつらえた小窓から覗かせる。

松ぼっくりや小石の手榴弾を集め、自分自身も小枝や葉でカモフラージュすれば準備万端。後は敵を待つばかりだ。

といっても、下の小路を通る大人にまかり間違って先制攻撃をしかけようものなら、また「下り松」の悪ガキがろくでもないことをしくさってと、親の前に突き出され、おおくじくられた揚句、もうそんとうな所へは行くなと、肝心要の要塞の在り処までバレてしまうはめになるかもしれないので、そんな愚行は是が非でも回避せねばならなかった。

勿論、密かに狙撃はしていた。あいにく近所には子供の姿も少なかったので、標的となるのは決まって犬、猫、鳥といった動物たちであった。

効果があったのは、言うまでもなく手榴弾の類だった。当たる確率は極めて低かったが、驚かせることだけはできた。不意をつかれた相手は、一瞬怯んではみるものの、身の危険を感じるのかそそくさと退散した。そんな時には、勝利の雄たけびとともに、

「こちらチェックメイト・キング・スリー。イエロー・ロックどうぞ……」

無線で本部に連絡することも忘れなかった。

要塞は時と所をかえ、何度となく設営された。

久方ぶりに斥候に出てみると、どこかのゲリラの襲撃を受けたのか、敷きつめた小枝や葉は枯れはて、見るも無惨な状態になっていることが多かったので、小隊長をも兼任している身としては、修復するよりも別の場所に造り直す方が賢明との断を下さなければならなかった。

かくしてあちらの山、こちらの茂みと、新たな場所を物色しまわる一兵卒の姿があった。

場所をかえると景観も敵もかわり、新たな気持ちで戦いに臨めた。